A工事(オーナー主導の工事)
A工事とは、建物のオーナーが業者の選定・発注・費用負担を担う工事のことです。対象となるのは主に建物の共用部分や構造躯体に関わる部分で、建物全体の維持管理に大きく影響を与える箇所が含まれます。
たとえば、以下のような工事がA工事にあたります:
* 外壁や屋根などの外装工事
* 共用廊下やトイレの改修工事
* エレベーターの改修工事
* 給排水設備の整備(共用部)
* 空調設備や防災設備の更新(共用部)
こうした工事は、建物の資産価値を守るために必要不可欠なものであるため、オーナーの責任のもとで実施されます。
なお、共用部で気になる点がある場合は、テナントからオーナーに相談・要望を伝えることが大切です。また、専有部分であっても、オーナーの判断でA工事に含まれるケースもあります。その場合、交渉次第では費用負担なしで改修を受けられることもあります。
反対に、専有部分の設備であっても賃貸借契約上、オーナーの資産とみなされるものは自由に手を加えることができない場合もあるため、事前の確認が欠かせません。
B工事(共同管理型の工事)
B工事とは、オーナーが業者を指定し、テナントがその業者に発注・費用負担をする工事です。専有部分であっても、建物全体の安全性や機能に関わる箇所が対象となります。
具体的には、以下のような工事が該当します:
* 空調設備の設置・改修
* 防災設備(スプリンクラーなど)の設置
* 防水設備の整備 など
これらの工事は、建築基準法や消防法などの法令や、建物の管理基準に基づくものであり、建物全体に影響を与える性質があるため、業者の選定はオーナーに一任されます。
一方で、発注・費用の負担はテナント側が行うため、以下の点に注意が必要です:
* 見積が高額になる傾向があります(業者の自由な選定ができず、競争原理が働きにくいため)
* 契約時にしっかりと見積や内容を確認し、必要であれば複数見積を取得してオーナーと相談するのも良い方法です
また、退去時の原状回復義務に関連して、天井設備やスプリンクラーといったB工事部分の扱いが契約で定められていることがあります。事前に契約書で確認することが重要です。
C工事(テナント主導の工事)
C工事とは、テナントが自ら業者を選び、発注・費用負担を行う工事です。対象となるのは、専有部分の中でも建物全体に影響を与えない範囲で、主に内装や設備の設置・変更などが含まれます。
たとえば、以下のような工事がC工事に該当します:
* コンセントや照明、ブレーカーの増設
* 壁紙や床材(カーペット・タイル)の張り替え
* 間仕切りの設置
* 社名看板や案内表示の設置
* インターネットや電話の配線工事
* 家具や什器の取付 など
C工事のメリットは、テナントが自由に業者を選べることです。そのため、複数社から見積を取り、コストを抑えやすいという利点があります。
ただし、注意点として:
* 一見C工事に見えても、空調や消防設備などB工事が併発する場合があります。その場合は、オーナーの指定業者を通す必要があるため、あらかじめ確認しておきましょう。
* 高層ビルや大型複合施設では、管理の都合から業者を指定される場合もあります。契約時に工事区分と業者の自由度をしっかり確認しておくことが大切です。
また、退去時には原状回復が必要なケースが多く、C工事で設置した内装なども撤去の対象になることがあります。あらかじめ将来の退去を見越して計画的に工事を行うことが望ましいでしょう。
補足:入退去費用を抑えるには?
テナントとして、入退去にかかる工事費用を抑えたい場合は、「居抜き物件」を検討するのも一つの選択肢です。居抜き物件は、前の入居者が使っていた内装や設備がそのまま残っている物件のことで、
* 内装費用が大幅に削減できる
* 退去時の原状回復義務が免除されることが多い
といったメリットがあります。
(了)