不動産の危険負担とは
不動産の売買契約など双務契約において、契約成立後に偶発的な事情によって目的物が滅失したり、使用できなくなった場合に、その損害をどちらの当事者が負担するかという問題を「危険負担」といいます。ここでいう「危険」とは自然災害や不可抗力による滅失・損傷などを指し、どちらがそのリスクを最終的に引き受けるのかを定めるのが危険負担制度です。
民法における危険負担の規定
民法は危険負担について533条および534条以下で定めています。特に、2020年4月の民法改正により規律が大きく変わりました。改正前は「債務者主義」と「債権者主義」の対立がありましたが、改正後は原則として「債権者主義」が採用されています。
改正前の規律
改正前の民法では、履行不能が当事者の責めに帰すべからざる事由による場合、債務者は債務を免れるが、相手方の反対給付請求権も消滅しない(いわゆる債務者主義)と解されていました。例えば、売買契約で目的物が不可抗力によって滅失した場合、売主は引渡義務を免れるが、買主の代金支払義務は残るという不公平が生じていました。
改正後の規律
改正民法では、この不公平を是正するために「債権者主義」が明文化されました。すなわち、相手方の責めに帰すべからざる事由で履行不能になった場合には、債務者は履行義務を免れるだけでなく、相手方の反対給付請求権も消滅することとなりました。
民法536条2項は以下のように規定しています。
「債務者の責めに帰することができない事由によって債務の履行ができなくなったときは、反対給付を受ける権利を失う。」
これにより、契約当事者のリスク分配が公平に整理されました。
不動産売買における危険負担
不動産売買では、売主の引渡し義務と買主の代金支払義務が対価関係に立ちます。契約成立後から引渡しまでの間に地震や火災で建物が滅失した場合に、誰がそのリスクを負うかが問題となります。
改正前は買主が代金支払い義務を免れず不公平との批判が強かったのに対し、改正後は原則として「売主が引渡不能となれば、買主も代金支払義務を免れる」という結論になります。
危険負担の具体例
- 契約成立直後に火災で建物が焼失: 売主は引渡義務を免れ、買主も代金支払い義務を免れる。
- 引渡し後に地震で倒壊: 既に引渡しが完了しているため、危険は買主に移転しており、買主が損害を負担する。
- 引渡前に一部損壊: 原則として売主の履行不能となり、買主も反対給付を拒むことができるが、契約の趣旨や一部履行可能性によっては代金減額請求などの調整が行われる。
危険負担と所有権移転の関係
危険負担は所有権移転時期とは別に考えられます。例えば不動産の売買契約では、所有権は登記により第三者対抗力を備えますが、危険負担は「引渡し」を基準として判断されることが多いです。判例も「引渡し完了時に危険が移転する」と解しています。
判例の動向
不動産の危険負担について判例は一貫して、契約の対価関係に着目して判断しています。特に「大審院昭和10年12月24日判決」や「最高裁昭和48年6月15日判決」などでは、売買契約における危険負担の帰属を「引渡時」を基準に判断しており、これが現在も通説的な理解となっています。
危険負担と契約自由
当事者間で別段の合意をすることは可能です。例えば売買契約書に「契約締結時に危険は買主に移転する」と明記することで、法律の原則とは異なる危険負担のルールを設定できます。特に実務では、売主の責任を限定するためにこのような条項を盛り込むことも多いです。ただし、消費者契約法に抵触する場合や信義則に反する場合には無効となる可能性もあります。
危険負担と保険
不動産売買では火災保険や地震保険が重要な役割を果たします。危険負担の帰属を契約でどう定めるかにかかわらず、実際の損害は保険によって填補されることが多いため、リスク管理の一環として保険加入を組み合わせるのが実務的対応となります。
まとめ
不動産の危険負担とは、契約成立後から引渡しまでの間に不可抗力によって目的物が滅失・損壊した場合に、その損害をどちらが負担するかという重要な問題です。
改正民法により、従来の不公平を是正し「債権者主義」が採用されたことで、原則として売主の引渡義務が不能になれば、買主も代金支払い義務を免れることになりました。
実務では契約条項や判例、保険制度とあわせて危険負担を理解することが不可欠です。
